『孤峰の白薔薇』

 

■前編:迷津慈航

目の前に広がっているのは無限の闇か

 

何も見えない

 

何も聞こえない

 

自分の声すらも飲み込まれてしまいそうな闇、闃然とした世界

 

そんな中でふと思う

 

この世に存在する全てのものに意味意義があるのならば

 

こんな私にも存在している意味があるのだろうかと

 

希望と罪業の狭間で動けなくなって、いつしか進むことを躊躇うようになっていた

 

天上に広がる青空は、マリア様の御心のようにあんなにも晴れ渡っているというのに

 

私の心は地下迷宮へ迷い込んだような深い闇に包まれている

 

抱いた想いは、あの頃と変わることなく今も確かにこの胸にある

 

だけれど、未来へと続く道を切り開く術を見失ったまま、背徳の闇中を今日も彷徨う

 

私の居場所はどこ?

 

闇の先にうっすらと浮かぶ光を追いかけて今まで歩いてきた

 

それだけが、孤独の只中にある私にとって唯一の道しるべ

 

その輝きはとても微弱なものだったけれど、罪の意識に苛まれている私の心に光を灯してくれている

 

マリア様、迷える罪人を導きたまえ!

 

うつろな双眸に、鮮やかに舞う桜の花びらが映った

 

乱舞する桜吹雪は孤独を忘れさせるほど美しくて

 

彼方から差し伸べられた手に気がつけずにいたら

 

誰かが私にそっと寄り添った

 

茨が全身に絡まったような激しい痛みと、胸が張り裂けそうなほど深い悲しみ

 

そして、痛みや悲しみの陰に隠された確かな温もり

 

あなたは誰……?

 

 

中編へつづく

 

 皆を欺いてクリスチャンであり続ける自分に罪悪感を感じている志摩子。苦悩の末、佐藤聖さまとの出会いで小さな一

歩を踏み出せた彼女の姿を前後編、前中後編で描いていきます。

 思い入れが強いふたりなので、いつも以上に偏った描写が予想されますが、なにとぞご容赦ください。

 

 

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