『ごきげんよう、お姉さま』
"ごきげんよう、お姉さま"
いつだって誰よりも傍にいたのに、なぜ、私の想いは届かないのですか?
姉妹になって一緒に過ごした歳月を忘れてしまわないように、まっさらだった心のキャンバスに虹色の絵の具で思い出 を描き続けているのに、お姉さまのキャンバスに描かれた私の姿はもう消されてしまったのですか?
例え暗い闇に落とされても、深い森に迷い込んでも、お姉さまを信じていたから心細いと思ったことはありませんでし た。 でも今は、見慣れた校内を歩いていても耐え難い心細さに苛まれています。
聞こえない声。届かない想い。私たちの間に生じた見えない軋轢。 降り続ける梅雨の雨粒が、まるでふたりの気持ちを遮っているようです。
大好きな人に振り向いてもらえないことが、こんなにも辛いことだなんて。 お姉さま、私はもういらない子なのですか?
今すぐロザリオを投げ返して、この悲しみから開放されたい。 嘘。 そんなことしたって、悲しみが増すだけだって自分が1番わかっている。 嫌われているとしても、自分から縁を切ることなんて絶対に出来やしないとわかっている。 もしも、お姉さまが姉妹関係の解消をお望みでも。
でも。例え嫌われてしまっていても、今はひたすらお姉さまの笑顔が見たい。今は、お姉さまの微笑みだけがただただ 恋しい。 祐巳と名を呼んでくださる涼やかな声、全身を包み込んでくださる毛布のようなぬくもりがひたすら懐かしい……。
マリア様、私の願いを1つだけ叶えてください。 大好きなお姉さまの傍らへ戻りたい。 以前のように私の手をギュッと握って欲しい。
今は私の言葉も届かないし、お姉さまの心も春雨に煙って見えないけれど、お慕いする気持ちに変わりはありません。
だから。
マリア様、私の願いを1つだけ叶えてください。
"ごきげんよう、お姉さま" 夜、夢の中で微笑んでくださるお姉さまに、私も笑顔でこたえる。 そして、いつの日にか必ず傍に戻りますと力強く誓いを立てる。 瞳子ちゃんでも誰でもなく、小笠原祥子さまの隣りに立つ事を許されたのは、私、福沢祐巳だけなのだから。 強がりでも何でもかまわない。でも、たぶんそれが私の素直な気持ち。 ぐらぐらと心は不安に揺れ続けているけれど、それでも止まらずに前へ進み続けることが、お姉さまを信じ続けること が今の私に出来る精一杯の想いの証なはずだから。
もし願いが叶ったら、もう2度と離れ離れにならないように繋いだ手をギュッと握り締めて離さない。
だから。
お姉さまを信じ続けられる強さを私にください。 いつか悲しみの扉を開けて、お姉さまが迎えに来てくださるその日まで……。
"ごきげんよう、お姉さま" 夢の中でお姉さまに挨拶して目が覚めた。
「ごきげんよう、祐巳」 涙の跡をそっと指で拭いながら私は鏡に映った自分に微笑みかけた。
前作から間がだいぶ空いてしまいました。お待ちいただいている方がいらっしゃいましたら、お待たせしてしまいまして 申し訳ありませんでした。
レイニーブルー劇中の祐巳ちゃんの気持ちです。祐巳ちゃんの独白というカタチで描いてみました。 最初は、青い傘と瞳子ちゃんも絡めてもう少し落ち込んだ様を描くつもりだったんですけれど、お気に入りの傘を盗ら れて泣き崩れる祐巳ちゃんの姿をアニメ版DVDで繰り返し観ていたら、これ以上突っ込んで書けなくなってしまいました。
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